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長崎家庭裁判所上県出張所 昭和56年(家)1号 審判

申立人 先山重男

被相続人 三浦定義

主文

本件申立を却下する。

理由

一  申立

1  申立の趣旨

被相続人三浦定義の相続財産中別紙物件目録記載の土地を申立人に分与する。

との審判を求める。

2  申立の理由

(一)  被相続人三浦定義は、昭和四六年四月二六日に死亡したが、相続人のあることが明らかでなかつたので、被相続人の妻トメ(昭和四三年死亡)の兄先山正の子である申立人の申立により相続財産管理人が選任され、相続財産管理人により民法九五七条一項所定の公告がなされ、次いで、相続財産管理人の請求により同法九五八条所定の相続人捜索の公告がなされたが、右相続人捜索の公告の期間内に相続人である権利を主張する者はいなかつた。

(二)  しかして、申立人は、被相続人の妻トメの死亡後被相続人と同居し、爾来生計を同じくするなど被相続人と特別の縁故があつたので、被相続人の唯一の相続財産ともいうべき別紙物件目録記載の土地を申立人に分与するとの審判を求める。

二  当裁判所の判断

1  本件記録並びに当庁昭和五二年(家)第一一号相続財産管理人選任申立事件及び当庁昭和五五年(家)第四号相続人捜索の公告申立事件の各記録によれば、次の事実が認められる。

(一)  被相続人が昭和四六年四月二六日死亡したところ、申立人は、相続人のあることが明らかでないとして、昭和五二年七月一三日相続財産管理人選任の申立をし、同年一一月四日、申立人の兄先山清夫が相続財産管理人に選任された(当庁昭和五二年(家)第一一号)。

(二)  右相続財産管理人は、昭和五四年一二月一四日、一切の相続債権者及び受遺者に対する民法九五七条一項所定の公告をした。

(三)  次いで、右相続財産管理人の請求により、昭和五五年五月二二日、民法九五八条所定の相続人捜索の公告がなされ、その公告期間満了の日である同年一二月一〇日を経過した(当庁昭和五五年(家)第四号)。

2  右事実によれば、被相続人の相続につき、相続人不存在の場合の一連の手続、すなわち、相続財産管理人の選任、民法九五七条一項所定の公告、同法九五八条所定の相続人捜索の公告の各手続が行われ、右相続人捜索の公告の公告期間も満了したということができる。

しかしながら、本件記録中の戸籍(除籍)謄(抄)本によれば、被相続人には別紙相続人目録記載の二名の相続人が存在することが当初より明らかであるといわなければならない。

しかして、民法九五八条の二は、同法九五八条所定の相続人捜索の公告の期間内に相続人である権利を主張する者がないときは、相続人・・・はその権利を行うことができない旨定めるが、右のいわゆる失権の効果は、相続人不存在の場合の一連の手続が適法有効であることを当然の前提とするものと解するのが相当であるから、本件のように、そもそも戸籍の記載により相続人のあることが当初より明らかであつて民法九五一条の要件を欠いている場合には、右失権の効果は生じないというべきである。

3  してみれば、被相続人には相続人のあることが当初より明らかであり、被相続人の特別縁故者としてその相続財産の分与を求める本件申立は前提を欠くといわざるをえないから、本件申立を却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 水野武)

別紙〈省略〉

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